[副校長] 夏季補講

夏季補講
夏休みである。本校では今年も夏季補講がはじまり、延べ100名以上の生徒が暑い中登校し講義に参加している。私も世界史で文化史を担当することとなった。第1講はギリシャ・ローマ時代。彫刻でも建築でも、2000年以上前の賢人たちの腕と想像力に驚かずにいられない。そんななか、ギリシャの哲学でソフィストと呼ばれた職業教師の話をした。

民主政時代(紀元前5世紀)の古代アテネでは、市民が民会(今でいう国会)に参加し国政について自由に意見を言える環境があった。そのため如何にして自分の意見を有利に展開し、対立する意見を退けるかのテクニックをレクチャーする一群が誕生した。彼らこそがソフィストである。ソフィストたちのテクニックの根本は「主観」。客観的事実をも主観的判断で否定しようとするのだ。個人の主観が真理の基準なのであるから、自分が美しいと思ったものが美しく、正しいと思ったものが正しいのである。当時の人々は彼らと議論しても話が進まずラチがあかなかった事であろう。そんな話をしながら、今の世の中にも似たような主張をする人が多い事に話が至った。

「自分は勉強を頑張っている。ゲームばかりやっているわけではない」「部屋を綺麗にしている、していない」など、日々の家庭での会話ならまだ可愛い。事実を突きつけられても「嘘だと言うなら、嘘という事を証明してみなさい」とか、「大臣が違うと言っているのだから違う」などの言葉の羅列。記録よりも記憶を重視する人々…。2000年以上経った今でも、ソフィストのように主観的判断で客観的事実を否定しようとする人々のなんと多いことか。

歴史ではソフィスト的手法は、やがて現れるソクラテスとその弟子たちの主張する客観的判断を重視する人々らに駆逐され、科学的なものの見方が世界に広まって行った。そんなソクラテスの弟子たちの一人であるプラトンは、国家に関する自著の中で「国づくりに大切な正義の三要素」について述べているので最後に紹介しよう。「知恵」と「勇気」と「節制」である。 これは国の指導者だけの話ではない。私たち一人ひとりが「自分」という国の創造者であると考えるなら、是非記憶に留めて欲しい。

勉強や様々な体験で知恵を育て、勇気を持って未来に進もう。夏の誘惑には負けないでね。でも高校生の夏だし、少しだけ遊ぼうか?!  笑

そんな事を話しながら、夏の補講は進んで行くのである。

 

2017.7.24 副校長 伊坪 誠

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