[副校長] 学校再開

『 学校再開 』

緊急事態宣言が解除された。いよいよ学校に生徒の笑顔が戻って来る。3月から全国的な規模で始まった臨時休校は、実に3ヶ月余りに及んだ。この間、各学校では様々な取り組みが行われた。プリントによる課題配布、授業動画配信、ライブによる授業やホームルーム。そのどれもが生徒や保護者の不安を少しでも解消出来ればという発想から始まった。この取り組みは、行政からも推奨され支持されていたと認識している。

生徒や保護者の不安とは何であったのか、学校が再開される今、もう一度思い返してみたい。おそらく不安は大きく二つに分類する事が出来る。進路活動も含めた学習に対する不安と、心の発達への不安である。

しかしこのコロナ禍での休校措置のさなか、いきなり9月入学の議論がわき起こった。学校再開に向けた国や県からのガイドラインでは、生徒の安心・安全を第一に段階をおった学校正常化のロードマップが示された。その一方で、今年度のカリキュラムを消化するために、夏休みや冬休みは短くなり、土曜日に授業を始める学校もあると聞く。

少し待って欲しい。これから始まる緊急事態宣言解除後の学校は、大切な事を忘れ動き出そうとしてはいまいか。

実際に授業動画配信を続けていた本校では、家庭でのネットやレポートを使った学習は、完璧とは言えずとも、学習への不安を解消するのに役だったと自負している。不慣れな中、先生方は実に献身的に取り組んでいただいた。おそらく全国の学校でも同じではなかろうか。これから始まる、休みを削っての授業実施も一時期議論に挙がった早急な9月入学案も、生徒・保護者が抱いていた「学習に対する不安」への解決策にはなる。しかし子供たちの「心への不安」の解決になるのだろうか。子供を学校に繋ぎさえすれば、行かせさえすれば、子供達の心は健やかに育つのだろうか?だとすれば、休校措置がとられたこの3ヶ月余りの間の損失は甚大であり、その責任は重い。はたしてそうであるのだろうか。そんな事は無いと私は考えたい。子供達が自宅にいたこの3ヶ月、幾度かの親との衝突や兄弟喧嘩があったことだろう、親たちは我が子の怠惰な生活を目の当たりにもしたのではないか。しかし、その一方で子供の笑顔や笑い声、我が子の成長や意外な一面(良い面)にも沢山出会えたのではないだろうか。子供は、学校でも家庭でも育つのだ。それには勿論、保護者の協力も欠かせない。

テレビでは、学校再開に向けた子供達のインタビューの模様が頻繁に映し出されている。どの声も、学校再開を楽しみにしている。ならば、何故全国にこんなにも多くの不登校児童・生徒が存在するのか。

学習と心の伸長。今回の学校再開で、現代の学校が忘れがちになっていることが透けて見えるようでならない。

さて、通信制の本校であるが、国や県から示されたガイドラインを参考に、生徒の安全・安心を第一に段階をおった学校再開を目指す。しかし夏休みや冬休みを削る事はしない。その一方で、学びたい生徒に向けた補講期間を例年より長く設定したいと考えている。学びたい・学校に行きたい生徒にも、自分の時間を大切にしたい生徒にも応えて行きたい。それが通信制高校の良さであり、教育で忘れてはならない事だと思っている。

子供と家庭と学校の二人三脚。

お互いの信頼と協力、そして安心が、一人の少年少女を大人へと導く。

家庭で成長した生徒達の笑顔に再会出来るのが、楽しみである。

 

2020.5.29

 

霞ヶ関高等学校

副校長 伊坪 誠

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