[副校長] 伊坪の世界史 特別講義「ルネサンス」

【 伊坪の世界史 特別講義 「ルネサンス」 】

新型コロナウイルスによる緊急事態宣言で、臨時休校が続いている。その間は在校生をはじめ様々な人に何かを感じてもらいたいと思い、拙い文章で恐縮だが「副校長のつぶやき」も出来るだけ多く発信することを心がけている。そんな中、今回は前回に続き授業的な話をしたい。テーマは「ルネサンス(文芸復興)」。コロナウイルスで危機的状況になっている今だからこそ、一読して色々と考えてもらいたいと願っている。

前回のブログでお話ししたペストが流行した14世紀のヨーロッパでは、ルネサンスと呼ばれる文化運動も始まりだした。当時強い力を持っていた禁欲的なカトリック教会の権威から人間性の自由・解放を求め、各人の個性を尊重しようとする文化運動である。平たく言えば、それまで人びとの日常生活や心の中で絶対的存在であった神という縛りから解放されてみないか? 個人の感情や感性をもっと大切にしながら今を楽しんでみようぜ! ということである。それをヒューマニズムとか人間主義という言葉で世界史の教科書では表現している。

ルネサンスの作品の中には、キリスト教がまだ存在していなかった時代を生き生きと描いた絵画や彫刻、ペストを逃れ郊外に籠もった男女10名が繰り広げる人間味溢れる100話語りのお話など、今までの既成概念を払拭し新しい生き方を模索する人間の活力を感じる事が出来る。家の中で生活することが多いこの時期、インターネット等でルネサンス期の作品を検索し、個々の作品の何処が「ルネサンス的なのか」を考えてみるのも面白い。

またこの時代、ペストの流行等で人口が激減した事により、農民の地位が向上し新たなビジネスチャンスが生まれた。教皇権の衰退に乗じて拡大を図る各地の為政者が、自らの資金源として成長する産業や都市の保護も始める。こうして財政力を持った都市の商人や各国の王たちがルネサンス期の芸術家のスポンサーにもなり、新たな時代を育む歯車の回転は早まって行った。人びとの思考の変換と、産業や政治の在り方の変化。それまでとは明らかに異なる大きな社会変化が起き始めたのが14世紀のヨーロッパなのだ。

死に至る病の大流行、それまでの社会概念の見直し、新しい時代の始まり・・・。

世界史の授業では、歴史を学びながら今を見つめ未来を描いて行くという事を大切に教えてきた。

新型コロナウイルスで世界が一変した今日。ブログをお読みの皆さんの生活や考え方も変わりつつあると思う。通信システムを活用した仕事や学習、消費やライフスタイルの見直し、新たな楽しさの発見、人との関わり方や自らの将来・・・。数ヶ月前の様な「元通りの日常」には、もはや戻らないと私は思う。ならば、人も社会もよい方向に変わるチャンスとしたい。

縛られていた価値観を見つめ直し、今出来る事から始めてみる。無い物はねだらない。身のまわりに無数に散らばっている幸せの欠片を、自身の目で一つずつ集めてみよう。本当に必要で大切なものは何か。思索と行動、試行錯誤の連続が新たな楽しさを生み、目の前の景色を変えて行く。

コロナ禍が終息した時、社会はどう変わるのだろう。その中で、自身の胸の中には何が生まれ動き始めているのだろうか。不安でもあり楽しみでもある。

 

2020.4.30

 

霞ヶ関高等学校

副校長 伊坪 誠

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