[副校長] 年の瀬

「年の瀬」
早いもので、今年も年の瀬となった。平成から令和への代替わりとラグビーワールドCUPでの日本チームの活躍。今年は例年以上に一年を通じてこの国に住む者としての一体感を感じた年となった。特にラグビーでは「ONE TEAM」が流行語大賞になり、人種や国籍を超えた者達がひとつのチームとして成長し活躍する姿に、これからの日本のあるべき姿を想わずにはいられなかった。

そんな一年が終わり行く中でのクリスマス。私はある映画のワンシーンを思い出している。映画の題名は「ショコラ」。ラッセ・ハルストレム監督が女優のジュリエット・ビノシュや有名なジョニー・デップを起用して作った作品だ。舞台はフランスの小さな村、古くからキリスト教の教えに厳格なこの村に、母と娘が住み着きチョコレート店を始めた。この店は客の気持ちに寄り添った味のチョコを提供し村人を魅了させる。おかげで厳格な村長の意に反し、村は明るくなっていった。そんな折、村にジプシーの集団がやって来て・・・。と話は進んで行く。物語の構図は、否定する者と肯定する者の溝。否定する者は、あらゆる手段を使い邪魔者を村から追い出そうと画策する。

私が思いだしたのは、この映画の後半のシーン。キリスト教のお祭りの日に、教会の神父さんが集まった人々の前でおこなった説法だ。その説法の概略は以下のようだったと記憶している。

「今日の説法はどんなテーマにしようか迷いました。 私が話したいのは、奇跡的な復活の話でしょうか? いいえ、違います・・・。 私は神の崇高さを話すつもりはありません。むしろ、『人間性』について語りたいのです・・・。 つまり、主はこの世でいかに生きたか、という事についてです。その優しさ・その寛容さを、私はこう考えます・・・。」

「私たち人間の価値は、何をしないかとか、何を禁じるかでは決まりません。何を否定するか・何に抵抗するか、誰を排除するのかではないのです。」

「むしろ、何を受け入れ、何を想像し、誰を歓迎するかで決まるものなのです。」

国民としての一体感に沸いた今年であるが、不寛容さも増大していまいか。SNSを含めた私たちの周りでは、そう思えてならない光景が後を絶たない。国籍や人種、主義主張・・・。自分との差異で敵と見方に色分けする人や集団。現実は映画よりも醜いのか。否定と排除からは、一握りの者だけが都合の良い社会にしかならないことを、リアルに生きる我々も肝に銘じたい。

「One for all, All for one」(一人はみんなのために、みんなは一人のために)これも今年よく耳にした言葉。大げさなことは要らない。先ずは、手を伸ばせば届くところから始めたい。

 

2019年12月18日

霞ヶ関高等学校 副校長 伊坪 誠

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